我が家に伝わる心霊教訓④

美津が実家から持ってきてしまった物を返した事で、加代の怒りはようやく収まります。
その後、加代が姿を現す事はなくなり、この出来事は収束を迎えたのでした。

 

この話を、葬儀に参列した大叔父から聞いていた私は「それで美津さんは何を取ってきちゃったの?」と問いました。

大叔父から返ってきた言葉は、なんと「分からない」でした。
「分からない???どういう事??現場にいたんでしょ?」と言いたくなりますよね。私はそう言いました。

 

というのも、加代の葬儀に参列した祖母始め親族は、美津が持ってきた物を確かに目の前で見ていました。にも関わらず、何故か誰一人として美津が何を持ってきたのか覚えていないというのです。
高価な物や金銭ではない事は覚えているそうですが、それ以外の事が全く思い出せない…と。

 

 

参列した親族からすれば、今回の出来事は稀にみる事件と言ってもいいはずです。
きっと参列しきれなかった親族や知人に、この恐ろしく珍しい出来事を話した人もいるはずで、聞いた人もいるはずなのですから、誰か一人くらい知っていてもおかしくないのですが、皆口を揃えて「覚えていない。ただ高価な物ではなく、どこの家にでもあるような物だった。」と言うのでした。

 

この騒動のきっかけを作ってしまった美津はというと、加代の葬儀以来めっきり性格が暗くなり、親族はおろか自分の家族ともめったに話をしなくなってしまい、軽々しく事件の話を出来るような雰囲気ではなくなってしまったそうです。

 

「きっとまた誰かに持って行かれないように、加代が皆の記憶を操作したんじゃないかと思うよ。
住職の枕元に立たずに奥さんの方に出たのも、住職では成仏させられてしまうと思ったんだろう。
しっかり返してもらうまで絶対に成仏したくなかったんだろうな。」と大叔父は言います。

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こう言う大叔父に、当時未婚だった私はピンと来なかったのですが、結婚をした今、この話を思い出すと、大叔父の言っている事は正しかったな。と思うのです。

 

私の夫には兄妹はいませんが、例えば夫が武雄の立場で私が加代の立場だったら、どう感じるでしょうか?夫の代わりに懸命に守っている家から、実家だからと勝手に物を持ち出されたら。
私もきっと加代のように「いつまで実家を自分の家だと思っているのか?非常識とは思わないのか?なぜ私が住む家の物を無断で持っていくのか。」と感じていたと思います。

 

「そんなの人として常識でしょ?」と思っている方、いると思います。
「実家だもん。そこまで気使わなくてもいいんじゃない?」と思っている方もいると思います。

 

全てはその家自体の常識と相手次第で変わってくるとは思いますが、この出来事で、我が一族に【家を出た人間は、絶対に実家の物を無闇に持ち出さない事。】という教訓が生まれたのでした。

 

未だに加代が自死を選んだはっきりした理由はわかっていません。
加代が返して欲しかった物も誰も思い出せません。
美津は最後まで以前のような明るさを取り戻さないまま、去年亡くなりました。

 

私は思うのです。
加代の自死の理由が最後まではっきりしなかった事、美津が持ち出した物を誰一人思い出せない事、
美津が塞ぎ込んだまま亡くなった事、全て加代の呪いなのではないか…と。

 

なんともスッキリしない結末ではありますが、皆さんも実家から何か持ちだす際には本当に持って行って大丈夫な物か、思い立ち止まって考えるのもいいかもしれません。

 

結婚という契約はメリットが多いものだと私自身感じていますが、それと同時に本当に複雑なものです。

 

結婚した相手には家族がいて親族がいます。
一人一人考えている事が違っていて常識も少しずつ違います。

 

自分とは違うその常識が自分の視野を広める事もあり、逆に常識の違いから苦しめられる事もあります。

 

皆さんは決して加代のようにも美津のようにもならないよう、お互いの常識に折り合いをつけて充実した結婚生活をお送りください。常識の折り合いが付かないと、死人に呪われる事もあるようです。

 

私も十分気をつけたいと思っています。

 

これにて我が家の心霊話、おしまいです。

 

ありがとうございました!

 

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